大学院時代は、しっぽの長さが異なるさまざまな霊長類において筋や骨格の形態と尾長との関連をひたすら明らかにしてきました。こうした形態学的な研究から得られた知見は、いつか化石が発見されれば、祖先種の姿形を知ることに大きく貢献するでしょう。
しかし、適切な化石記録が発見されていない現時点では、純粋に現生種の形態を見ているだけではしっぽがどうしてなくなったのかという進化の謎には辿り着けないことに私は気付いてしまいました。そこで博士号をとった後、心機一転はじめた新規プロジェクトが「しっぽの発生」に関する研究です。
なんで発生?
発生というのは、受精卵から体のかたちがつくられていく過程のことを言います。
「ヒトはどのようにしっぽを失くしたのか」が知りたいくせに、なぜ発生を見ようと思ったのか。きちんと説明すると小難しいので、ケーキづくりにたとえます。
いろんなケーキとそのレシピ
世の中には、たくさんの種類のケーキがあります。私は、お酒の効いたチョコケーキが好きですが、それ以外にもチーズケーキ、ショートケーキ、シュークリーム…。
挙げていったらきりがありません。
そんな数多あるケーキですが、その主な材料は、粉・砂糖・卵です。
じゃあ、同じ材料からなぜ色んな種類のケーキが生まれるのでしょう。
それは、作り方すなわちレシピが違うからです。
チーズを入れるからチーズケーキになり、焼くのか蒸すのか冷やすのかによって食感も全く変わってしまいます。
この話を念頭において、基本材料=受精卵・ケーキ=いろんな形の生物
に置き換えてみて下さい。発生は、体のかたちを決めるのに重要なレシピです。
各ケーキの詳細なレシピは、とてもページ数の多い料理本にまとめられています。
それがゲノムです。
なんでいろんなケーキができるのか、それを知るためにレシピを比較します。
レシピの違いがわかったら、それが収められている本のページがどこにあるのか
いつどんな風に改訂されたのかを調べていく。
そうしたらいつか、そのケーキが生み出された経緯がわかるかもしれません。
そんな風に考えて、発生 (生物の体のかたちづくりレシピ)の研究をしています。