このページを開いている皆さんのおしりには、きっとしっぽは生えていないことだろうと
思います。でも、知っていますか?自分がかつては、ちゃんとしっぽを持っていたことを。
我々ヒトの発生過程は、大きく2つのステップ (胚子期と胎児期)に分けることができます。
簡単に言うと胚子期には受精卵からダイナミックに体のかたちが作られていき、
胎児期になるとそうした体の各器官が十分なサイズへと大きくなっていきます。
胚子期の段階で、我々にはみんな、立派にしっぽがありました。
ヒト胚のしっぽはしかし、胚子期が終わる段階で完全になくなってしまいます。
このこと自体は古くから知られてきましたが、一体どうやって、一旦はできたはずの
我々のしっぽはなくなってしまうのでしょう。
たった2日ほどで、急激に短くなる
それを調べるために私は、本物のヒト胚標本を観察することにしました。
京都大学大学院医学研究科附属 先天異常標本解析センター (先天研) には世界3大ヒト胚コレクションのうちのひとつ京都コレクションが所蔵されています。
とにかくたくさん、貴重な標本たちが眠っています。
しっぽが短くなるとき、体の内部では何が起こっているのかを知るため
私は切片標本 (スライスされた標本) を使って、将来椎骨 (背骨) となる体節という部分の
数を数えてみました。
胚子期の中程まで、しっぽは体節の数を増やしながらぐんぐんと伸びていきます。
しかし、しっぽの伸長が止まるとその後わずか2日程でしっぽの体節が一気に消え去ってしまうではありませんか。その数、椎骨に換算すると約5個分。
本来なら、さぞ立派になるはずだったしっぽ。内部には椎骨の素まで作っていたのに
あっけなく2日でなくなってしまうということがわかりました。
このダイナミックなしっぽのかたちづくりを、私は「尾部退縮 (tail reduction)」と名付けました。